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大阪地方裁判所 昭和35年(わ)1003号 判決 1966年10月12日

主文

被告人両名をいずれも懲役八月に処する。

但し本裁判確定の日から二年間右各刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人秋山圭はかねて金融業富士商事株式会社(代表取締役木山宗男二)及び金沢平翰の債務者であつた者、被告人秋山小まつはその妻であるが、

被告人秋山圭は昭和二八年八月二九日大阪簡易裁判所に於て申立人富士商事株式会社、相手方秋山圭間の同年(イ)第一四二五号貸金請求事件について裁判上の和解をして金三百万円の富士商事に対する債務を承認し、自己所有の大阪市北区小松原町二三番地所在木造鉄板葺三階建家屋一棟(延坪約八一坪八合六勺)を提供してこれに抵当権設定登記並びに代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を了したのであるが、同年一一月一四日富士商事は右各登記に基く権利を抛棄し、同年一二月二日右各登記を抹消したので(右権利の抛棄に依る登記の抹消は被告人秋山圭が、富士商事に対し、前示承認債務を完済したこととなつたので、富士商事が抹消登記に応じたもので、従つて右和解調書は失効した)、このため右不動産に対する後順位抵当権者で、かつ代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全仮登記権利者であつた前記金沢平翰が一番抵当権者に昇格し、昭和三〇年四月二五日金沢はその権利の実行として適法に代物弁済を登記原因とする右不動産の所有権移転登記を了して、同年五月九日右不動産の明渡の強制執行をしたので、右不動産は金沢の所有かつ占有に帰するに至つたところ、被告人両名は他三名と共謀の上、右不動産の奪回を企図し、既に右不動産は金沢が適法に所有しかつ占有し、最早被告人秋山の所有占有を離れておつて、富士商事が前記和解調書に基いて被告人秋山圭に対して右不動産に対する所定の強制執行は許されないこととなつたのであるに拘らず、右各事実を秘し、依然として右不動産は被告人秋山圭の所有、占有する如く装い、昭和三〇年一一月一八日頃、同市東区法円坂町一番地大阪簡易裁判所に於て、同裁判所に対し、前記秋山圭、富士商事間の和解調書正本(昭和二八年八月二九日同簡易裁判所裁判官山崎松三作成、昭和二八年(イ)第一四二号貸金請求事件の和解調書正本。この和解調書が既に失効しており従つて、これについて執行文付与の申請は許されないのであるが)につき執行文付与の申請をなし、同裁判所書記官補喜治栄一郎をその旨誤信せしめて執行文の付与を受け、これを同年同月二六日頃同市北区若松町八番地大阪地方裁判所構内に於て同裁判所所属執行吏向井量平に対しても前示各事実を秘して右執行文を提出行使し、右書記官補同様同執行吏を誤信せしめ、因つてその頃同執行吏をして結局右不動産に対する二重の強制執行をなさしめ金沢の占有下にある同不動産を富士商事の占有下に移転せしめてこれを金沢から騙取したものである。

(証拠の標目)(省略)

(罰条)

法律を適用すると、被告人両名の判示所為はいずれも刑法第二四六条第一項、第六〇条に該当するので、その所定刑期内で被告人両名をいずれも懲役八月に処し、その情状刑の執行を猶予するを相当と認め、同法第二五条の定めるところに従い、本裁判確定の日から二年間右各刑の執行を猶予し、訴訟費用の負担につき刑訴法第一八一条第一項本文、第一八二条の各規定を適用して主文のとおり判決する。

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